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真空管とは

「電気」、そして「増幅」とは何か?

「電気」、そして「増幅」とは何か?

真空管の動作原理を説明するにあたって、まずは電気に関する重要な事柄を2つ確認しておきましょう。1つ目は「電気とは何か?」という点です。そもそも電気にはいくつかのルールがあります。流れた電気(の量)を「電流」、電池が電気を流そうとする力を「電圧」と呼び、電流は電池のプラスから流れてひと回りしてマイナスに戻ってきます。このように、電気はぐるりと一周するので「電気回路」と呼ばれているわけです。

図1aをチェックしてみてください。これは電池と電球を繋いだ様子を示した図です。電池から電球に電気が供給されて、灯りが点くことを表しています。もちろん、仮に電球(の中の線)が切れた場合、回路が断たれてしまい、電流が流れなくなります。但しその際にも、電池からは電気を流そうとする力が働き続けているという点を把握しておいてください。切れた電球の両端には電圧が働いている状態になっています。

図1 電気回路

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次に回路に電気が流れる時、導線の中で何が起こっているかを確認してみましょう。図1bは、図1aの回路に電流が流れている時の導線内の拡大図です。導線の中に「電子」という物質がたくさん存在していて、同じ方向に向かって移動しているのが分かると思います。この際、電流が多い時には移動する電子の数が多くなります。また電圧が働いていない場合(電流が流れていない時)、電子は一定の方向に進むことをやめて、自身の周辺をランダムに動く性質があります。つまり電流を流したければ、何らかの方法で「電子を移動させてやれば良い」とも言えるわけです。

ちなみに、電子は電気的にマイナスの性質を持っているため、移動するときは電池のマイナス側から飛び出して、プラス側に吸い寄せられるように移動します。少しややこしいのですが、「電子の動きは電流の方向とは逆になる」ということは確実に覚えておいてください。

 

確認事項の2つ目は、「増幅とは何か?」という点です。「増幅」というと、言葉のイメージから、元の信号に電気を継ぎ足して大きくしているように捉えがちです。しかし実際には、入力信号の拡大コピー信号を新たに電源から作り出しているのです。

 

ここで図2をチェックしてみてください。これは増幅素子の動作を表したものです。増幅素子は基本的に3つの端子からできていて、そのうちの出力端子に直流電源を繋ます。直流なので電流が流れっぱなし、もしくは全く流れない、という状況になります。この状態でギターなどの交流信号を入力端子に流すと、信号の電圧(または電流)の変化が電源の電流をコントロールします。その結果、入力信号に比例した交流信号が出力端子に現れ、あたかも増幅されたかのように見えるわけです。そしてこの信号を適切な値に調整して分岐すれば、負荷や次段の増幅回路に送る出力信号となります。

以上の「電気」と「増幅」という2つの事柄をふまえて、真空管の動作原理を見てみましょう。

図2 増幅素子の動作イメージ

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真空管の構造と動作原理

真空管の構造と動作原理

真空管にも様々な種類がありますが、ここでは「三極管」という種類をメインに説明していきましょう。図3aが「三極管」を輪切りにカットした断面構造です。一番外側のガラス管の内側がすべて真空になっていて、それ故に「真空管」と呼ばれているわけです。

 

構造としては、一番中心にあるのが「ヒーター」で、それを「カソード」という筒状の金属が囲んでいて、その周りを「グリッド」という網状のシートが覆い、最後に「プレート」という板状の金属が囲っている形になります。たいていの真空管において、ガラス管の中に見えているのは、ほとんどが「プレート」です。通常、「プレート」以外の部品はあまりよく見えません。

この中で直接増幅に関わる電極が「プレート」、「グリッド」「カソード」の3つです。「三極管」という名称はそこからきているわけです。シンボルマークとしては、図3bで示したものが三極管を表す記号として使われ、動作原理を説明するのにも非常に適しているので、今回はこのマークを元に解説していきます。

図3 真空管の構造

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真空管を使った増幅にはいくつかの方式がありますが、「グリッド端子」に元の信号を入力し、「プレート端子」から増幅された信号を取り出すという方法が最も基本となります。図4を見ながら、その動作を順番に確認していきましょう。

図4 真空管の動作原理

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【a】
信号が出力されるのは「プレート端子」なので、ここに電源のプラス側を繋ぎます。マイナス側は「カソード端子」に繋ぎます。冒頭で解説した「増幅の原理」に従うなら、電源から電流を引っ張り出せば良いのですが、「プレート」と「カソード」の間には電気を通すものがありません。よって電圧は働いていても電流は流れないことになります。真空管の動作に関して、実はそこがミソなのです。

 

【b】
「ヒーター端子」に先ほどとは別の電源を繋ぎます。「ヒーター」とはその名前の通り、電気を通すと加熱される仕掛け、この熱が「カソード」を温めて、「カソード」内にある電子の動きを活性化させる役割を担っています。温められることによって活性化した電子は、「プレート」と「カソード」の間に繋いだ電源の電圧によって空中に飛び出し、電気的にプラスの性質を帯びている「プレート」に吸い寄せられていくのです。

 

【c】
ここまでの現象をまとめたのが図4cです。「プレート」と「カソード」の間に電流が流れることになり、この電流のことを「プレート電流」と呼びます。また、「カソード」から飛び出した電子はすぐに電源から補充されるので、電流が流れ続けます(ちなみにギター・アンプの電源が2段階になっているのは先にヒーターを温めて、電気が充分に流れる状態を作り出すためです)。

 

【d】
しかし、これだけでは電流が際限なく流れてしまうことになるので、電流の量を調整する必要があります。それを実現するために、さらに別の電源を「グリッド」に繋ぎます。マイナスを「グリッド」に、プラスを「カソード」に繋ぐことで、「グリッド」と「カソード」の間に電圧が働かせるのです。この電圧を「グリッド電圧」と呼び、こうすることで「グリッド」にはマイナスの力が加わることになります。すると、先ほどまで「プレート」に向かって飛んでいた電子が「グリッド」に帯びたマイナスの力に反発して「カソード」に戻ってしまうわけです(図4e)。もちろん「カソード」の間をすり抜けて「プレート」に到達する電子もありますが、電子の数が減ったため、結果として「プレート電流」が減少することになります。つまり「グリッド電圧」を強くすれば、さらに移動する電子が減り、それに比例して電流も減少します。

【f】
以上をまとめたのが図4fです。試しに「グリッド電圧」をギターやマイクの信号に置き換えて考えてみましょう。ギターやマイクの信号は、周期的に電圧が大きくなったり小さくなったりする交流信号で、常に電圧の変化が起こっています。図4fで示した波の図は電圧が変化していることを表したものです。そして、もうお分かりかと思いますが、「グリッド電圧」が変化するということは、それに対応して「プレート電流」も変化するということに他なりません。つまり冒頭で説明したように、元の信号に比例した信号が出力されたことになり、これで電気的な増幅が完成したことになります。以上が真空管の動作原理になります。

従来の真空管と Nutube の「違い」と「共通点」

従来の真空管と Nutube の「違い」と「共通点」

従来の真空管とNutubeは、どこが共通していてどこが異なるのでしょうか。それを確認していきましょう。図5にNutubeの大まかな構造(左)とシンボルマーク(右)を示しました。ここでは従来の三極管と区別するために、シンボルマークの外枠を四角にしてあります。従来の真空管を示した図3とかなり似ていますが、中の端子を表す名称が少し異なっています。Nutubeの場合、上から順に「アノード」、「グリッド」、「フィラメント」で、ガラス管の中の構造は、下側から「アノード」、「グリッド」、「フィラメント」です。

図5 Nutubeの構造

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「アノード」は「プレート」と全く同じ働きを担っていて、ここに電源を繋ぎ、出力信号へと繋がる端子です。真空管を使った増幅回路を設計する時には、「プレート電流」と「プレート電圧」を示した相対的なグラフを用いますが、Nutubeではこれを「アノード電流」と「アノード電圧」という名称に置き換えることができます。

「グリッド」も従来の真空管と全く同じ機能を持ち、ここに信号を入力して出力信号をコントロールします。

「フィラメント」は、「ヒーター」と「カソード」が一緒になったものです。これは「直熱管」と呼ばれる種類の真空管と同じ仕様で、端子を直接温めることにより電子をより放出しやすくするという方式です(ちなみに「カソード」と「ヒーター」が別になった方式の真空管のことは「傍熱管」と呼んでいます)。Nutubeではその仕様が応用されているわけです。

以上のことを踏まえて、図6を見ながらNutubeの動作の様子をみていきましょう。

図6 Nutubeの動作原理

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【A】
まずは「アノード」と「フィラメント」の間に電源を接続します。「アノード」とは「プラス」という意味合いなので、こちら側に電源のプラスを接続します。これは従来の真空管における「プレート」と全く同じ役割を持っていますが、必要な電源電圧が異なります。従来の真空管が数100Vの電圧を必要としていたのに対して、Nutubeは5V~80Vという比べものにならないほど低い電圧で動作するという特徴を持っています。これは非常に大きな特性と言えるでしょう。

【B】
次に「フィラメント」に電源を繋いで電子を活性化させます。「ヒーター」と「カソード」を一体にしたに「直熱管」方式を採用したことで、より少ない電流でも電子の活性化が起こりやすなっていて、これも低電圧化を実現できた要因になっているようです。但し、この方式にはデメリットもあります。物理的なショックがそのままノイズとして現れやすくいるので、Nutubeをエフェクターなどに実装する際には振動防止策を施す必要があるでしょう。

 

【C】
【A】と【B】で示した接続を行なうことによって、従来の真空管と同様に「アノード」から「フィラメント」へ電流が流れることになります。従来型の真空管と異なっているのは、電流の量が非常に少なくても動作するので、電池で稼働させることも可能になっているという点です。

 

【D】
従来の真空管と同様に、信号をコントロールするために「グリッド」~「フィラメント」間に電源を繋ぎます。ここで注意すべき点が1つあります。Nutubeは前述した従来の真空管とは異なり、「グリッド側=プラス」になっていることです。この接続により、「グリッド端子」はプラスに偏った性質を持つことになる点を把握しておいてください。

 

【E】
「フィラメント」から「アノード」に向かって飛ぶ電子は「グリッド」に引き寄せられるようにして加速し、「グリッド」の隙間を抜けて「アノード」に達します。そのうち幾つかの電子は「グリッド」に引っかかり、多少の電流が「グリッド」に流れます。つまり従来の真空管同様、「グリッド」にかける電圧の大きさで「アノード」から流れる電流が変化することが分かります。

 

【F】
以上をまとめたのが図6Fです。図4同様に入力信号で出力信号をコントロールできていることがわかると思います。但し、入力信号は「グリッド電圧」をコントロールするわけですから、Nutubeの場合は常にプラス側に振れる必要があり、波形を底上げするための「バイアス電圧」という電源が必要です。従って、従来の三極管と同じく3種類の電源が必要になります。従来の真空管おいては、それを作り出すために、重くて大きい「トランス」という変圧器を用いて、コンセントから供給される100Vを元に2種類の交流電圧を作り出し、さらにその一方を整流・降圧する必要がありました。それと同様にNutubeでもそれぞれに適した電圧を作る必要があるものの、9V電池1つで全てをまかなうことが可能で、従来の真空管と比べると電源の設計が遥かに簡単になっています。とはいえ、「フィラメント」の電圧には注意してください。データシートによると「0.7V」に設定されていて、最大値も「0.8V」とかなりデリケートな値です。間違って「9V」や「バイアス電圧」(グリッドを底上げする電圧)に繋ぐと、数秒で故障してしまうでしょう。

最後に、真空管の音響特性について簡単に触れておきます。前述したように、「増幅」とは入力信号の拡大コピーを作り出すことですが、原理上、完全なコピーを作り出すことは不可能で、どうしても波形にわずかなゆがみが生じてしまいます。

 

図7にNutubeを含む三極管の増幅特性の特徴を示しました。これは「サイン波」という最も基本的な波形を増幅した時の出力波形です。増幅された信号の波形は、一見すると滑らかで全くゆがみがないように見みえますが、隣に並べた「サイン波の波形」と比べると、山側は伸び、谷側はつぶれ、上下対称ではなくなっているのがわかるでしょうか。実はこの波形を分解すると、図8のように2倍音が増えているのです。これがいわゆる「真空管の音」と言われるものの特徴のひとつです。倍音が増えたと言っても、ディストーションのように劇的に変化するわけではありませんが、このごく僅かな味付けがギターの音色にマッチしているのでしょう。

図7 三極管による増幅の波形

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図8 増幅波形の成分

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三極管の増幅ではゲインを大きく取るほど、波形のゆがみが大きなり、それに伴って倍音の割合が増え、歪んだ音色になっていきます。また、設計のさじ加減で増幅の波形が多少変わってくるという辺りも、「真空管を作った機器の面白さ」でもあるのではないでしょうか。

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